普通預金と定期預金

 普通預金と定期預金
  
弁護士 永島賢也 2007年4月5日

1 Aさんが、B銀行に定期預金をしたとします。この場合、預金者は誰でしょうか?
そうです、Aさんです。
預金者とは、預金債権を持っている者のことで、このような問題を預金者の認定と呼びます。


2 では、次に、Aさんが、自分のお金をCさんの名義で、B銀行に定期預金したとします。この場合、預金者は誰でしょうか?

名義人のCさんでしょうか?

それとも、実際にお金を出したAさんでしょうか?

判例は、Aさんであるとしています。つまり、名義に重きをおかないのです。これを客観説といいます。つまり、預金者は、出えん者であるとするのです。


3 たとえば、AさんがB信用金庫に定期預金をするとき、利回りを上げるため、職員定期預金を利用しようとして、知人のCさんの名義にしてもらったところ、なんと、B信用金庫は、たまたまCさんに貸付をしていたので、B信用金庫がこれと定期預金を相殺してしまい、Aさんが払戻の請求をしたのに、B信用金庫から拒否されたという場合はどうでしょうか。

この場合、預金者は誰と考えればよいでしょうか?


4 最高裁判所は、出えん者はAですから、預金債権を持っているのはAであり、B信用金庫は、Cへの貸付債権と相殺することはできないとしました。Aさんにとっては一安心です。


5 一般に金融機関にとっては預金者が誰であっても格別の不利益はないので、預金の原資を出えんした者の利益を保護する観点から、その出えん者が預金者として預金債権の帰属主体になると解するのが相当であると説明されます。


6 では、普通預金については、どうでしょうか?


7 最高裁判所は、損害保険代理店の保険料専用の普通預金口座について、その預金債権を損害保険会社ではなく、その代理店に帰属すると判断しました(平成15年2月21日最高裁判決、以下「221判決」といいます。)。


8 そして、まもなく、最高裁判所は、弁護士が債務整理のため委任者から受領した金銭を預け入れるために開設した弁護士名義の普通預金口座について、その預金債権をその弁護士に帰属すると判断しました(同年6月12日最高裁判決、以下「612判決」といいます。)。


9 このようにみると、最高裁判所は、定期預金は出えん者に帰属し、普通預金は名義人に帰属するように、ふたつに分けて解釈しているようにも見えます。

しかし、判決文をよく読むと、そのような区別をしているものではありません。


10 定期預金では、口座開設後、継続的な入出金による消費寄託契約の成立が通常予定されていませんので、出えん者に預金債権が帰属するという客観説的なアプローチに適合的といえると思います。


11 他方、普通預金では、口座開設後、継続的な入出金が繰り返されるのが通常なので、そのほかの事情も考慮して決めるというアプローチが採用されているように見えます。


12 例えば、221判決では、口座を開設した者が誰か、本件口座の通帳及び届出印の管理者は誰か、預金の原資(金銭)は誰のものかなどを総合的に判断しています。

そして、612判決では、弁護士が、弁護士に帰属する財産をもって、弁護士の名義で開設し、その後も管理していたので、その弁護士に帰属する債権であるとしています。

つまり、普通預金の預金者の認定でも、原資の帰属者が誰かという点が考慮されています。


13 このように、普通預金についても出えん者ないし原資の帰属者が誰かという点は重要な要素のひとつといえます。その場合、例えば、原資が、金銭であるときは、金銭については占有と所有が結合しているため、金銭の受領者(占有者)が、原資の帰属者となると考えられます。


14 仮に、普通預金の口座開設後、全く、入出金がなされていなかった場合、普通預金であっても、客観説的なアプローチが適合的になり得るものと考えられますが、そうでなくとも、出えん者が誰かという要素は重要視されると思います。


15 また、仮に、普通預金について、口座開設後、それまでの入出金とは明らかな断絶が認められる場合、改めて、断絶後の原資の帰属者、管理態様等を総合的に判断する必要があると思われます。例えば、少額の入出金がなされていたにすぎない口座に、第三者から莫大な金員が出えんされ、その後、主に、その第三者のために口座が管理されている場合などです。
                                                                
以 上
Copyright © 2007 Kenya Nagashima, all rights reserved.