会社法の施行で

 会社法の施行で
  
弁護士 永島賢也 2007年12月6日

 

平成18年5月1日、会社法が施行されました。それまで、商法と呼ばれていましたが、以前から、法律家の間では会社に関する部分を「会社法」と呼ぶことが多かったので、ほとんど違和感なく受けとめられているように思います。


ただ、今回施行された会社法は、それまで会社法と呼ばれていた条文とは、相当に規定振りが違いますので、今後、いろいろ、気がつく点が増えてくるのではないかと思われます。



会社法は、株式会社と有限会社をひとつの会社類型(いずれも株式会社)として統合しています。今までは、有限会社については、商法とは別に、有限会社法という法律がありました。しかし、このたび、会社法の施行によって、有限会社法は廃止されることになりました。


いわゆる整備法によると、旧有限会社法の規定による有限会社であっても、平成18年5月1日に存するもの(旧有限会社)は、株式会社として存続します(同法2条1項)。これは、特例有限会社と呼ばれます(同法3条)。


特例有限会社は、法人としては従前の旧有限会社と同一のものです。また、企業の実態としても、ほとんど変わらないものであることが多いと思われます。


しかし、法律的には、もともと、旧有限会社法では、特別決議が必要とされていたものが、会社法になって、普通決議で足りると変更されたものもあります。



例えば、利益相反取引についてです。次のとおりです。



旧有限会社は、取締役が、その有限会社と利益の相反する取引(例えば、会社から金銭の貸し付けを受ける場合など)をする場合、社員総会の特別決議(4分の3)による認許が必要になります(旧有限会社法48条1項、30条1項、29条2項)。


他方、会社法によると、同様の取引について、過半数の普通決議による承認で足りるとされています。


会社法の条文を見てみましょう。次のとおりです。


会社法356条1項2号は、取締役と会社との間の取引ついて、株主総会の承認を受けなければならないと定めています。そして、同法309条は、株主総会の決議要件について定め、その2項に掲げられているケースについては、特別決議(3分の2)が必要ですが、そうでない場合は、309条1項の普通決議(2分の1)で足りるとしています。


そして、もうひとひねり。


いわゆる整備法と言われている法律によると、次のとおりです。


整備法14条3項は、特例有限会社について特別な定めをしていまして、それは、会社法309条2項の特別決議の要件(3分の2)を、4分の3に加重するというものです(3分の2 → 4分の3)。


したがって、特例有限会社の場合、会社法が特別決議と定めているものについては、4分の3という決議要件をクリアしなければなりません。


見方を変えれば、特例有限会社にとって、会社法が特別決議と定めているものは、従前のとおり、4分の3の決議要件が必要ですが、会社法が特別決議とは定めていないものについては、2分の1の普通決議で足りることになります。



要するに、まとめると、旧有限会社法で特別決議とされていたものが、会社法で普通決議で足りるとされると、決議要件が、4分の3から、一気に、2分の1まで緩和されることになります。


ちなみに、株主総会の承認を受けた利益相反取引は、有効になりますが、承認を受けない取引については、直接取引の相手方に対しては、無効を主張できます。そういう意味で承認決議は重要です。


なお、取締役会を設置している会社では、承認機関は、株主総会ではなく、取締役会となります(同法365条1項)。


こうしてみると、会社法は、特例有限会社については、利益相反取引について、従前のような4分の3の特別決議ではなく、2分の1の普通決議で足りると、従前の有限会社法の考え方を変更したとも考えられます。


しかし、実際には、特例有限会社の実態は、従前と有限会社とほとんど変わらないと考えられ、そうだとすると、利益相反取引の決議要件を、一気に4分の3から2分の1まで緩和してしまったことが、果たして妥当であったのかという視点からの検討も可能といえます。




ところで、教科書的には、利益相反取引に対する承認は、「事後承認も認められないわけではない」とされています(江頭憲治郎:「株式会社法」)。


通常は、事前に行われるものですが、相手方のある取引ですから、場合によっては、事後承認とならざるを得ない場合もあるでしょう。


事後的な承認では、すべて無効となってしまうという結論は妥当なものとはいえないと思います。




問題は、実際に行われた利益の相反する取引の時期と、その取引に対する事後承認の時期が大幅にずれ込み、会社法施行日をまたいでしまった場合です。


 「取引 → 会社法施行 → 事後承認」という順序の場合です。


利益相反取引に対する承認は、事前承認が原則ですから、会社法施行前に行われた利益相反取引は、旧有限会社法に基づき4分の3の特別決議が必要となります。


事後的に承認するとしても、4分の3の特別決議が必要なことはいうまでもありません。


ただし、この事後承認が、会社法施行日以降になされる場合は、どう解釈すべきでしょう。


会社法が施行される前になされた取引である以上、従前のとおり、旧有限会社が適用され、4分の3の決議要件をクリアしなければならないのか、取引自体は、施行日前でも、承認決議は、施行日後なので2分の1で足りるのか、はっきりしません。


通常は、事前承認が前提であるのに、それを事後的に、しかも、会社施行日以降に承認することにして、決議要件のハードルを下げるということが、法の趣旨に合致するのか、疑問があります。

これは、取締役が、株主から責任追及を受けた場合、事後的に総会決議を経ることによって責任を免れようとする際などに問題になります。





整備法:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

整備法2条に、旧有限会社は、会社法による株式会社として存続し、同法3条1項により、商号中に有限会社という文字を用いなければなりません。これを、同法3条2項は、特例有限会社と呼びます。

http://www.moj.go.jp/HOUAN/houan33.html
                                        
以 上
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