A&M RecordsとNapsterとの間の紛争につき、控訴審の判断がだされました。
内容は、地裁が既に出していた停止命令の範囲を修正するというものです。 (地裁の判断を一部は認容し、一部は否定するということ)
弁護士 永島賢也 2001年2月13日 速報
内容を要約するとおおよそ次のとおりです。
1 Napster社のfair useの反論は否定されました。
2 Napster社が
DMCA法によって保護されることになるかどうかは更なる充実した審理が必要であるとされました。
3 Napster社のAudio Home Recording Act による反論については、コンピュータのハードディスクのファイルについて同法はカバーするものではないとされました。
ところで、いうところの修正内容とは、Napster社は著作権侵害のファイルを知りそれがNapsterのシステムに利用できると知りうべきでかつそのファイルを配布することを阻止しない場合責任を負い、また、Napster社はNapsterのシステムを監視できるのにそれを行わず、著作権侵害のファイルへのアクセスを阻止しないときに多量の著作権侵害につき責任を負う、というように絞り込まれているようです。
(今までの経緯の概略)
アメリカのNAPSTER社は、1999年ころ、音楽好きの方々がオンライン上でチャットし、自分たちの持っているミュージック(MP3形式)のコレクションを交換しあうネット上のスペースを提供するサービスを行っていました。
これが、その後、爆発的な人気を博すことになります。
全米レコード協会(RIAA・ワーナーミュージックグループ、ソニーミュージックグループ、ユニバーサルミュージックグループなどが属しています)は、1999年の終わりころ、このNAPSTER社が提供するサービスにつき、著作権侵害を理由に連邦地裁に提訴しました。
デジタルミレニアム著作権法(DMCA・Digital Millennium Copyligt Act)という法律に違反したという理由です。
ロックグループのMetallicaも、2000年4月ころNAPSTER社をも提訴しました。また、ラップアーティストのDR.Dreも提訴しました。
そのほか、大学も相手方とされました。(学生が大学からNAPSTERのサービスを利用していたのです)。大学側は、多数の学生がNAPSTERにアクセスするとトラフィックが混雑するので禁止したところもありました(もっとも、禁止要請を拒否する大学もありました。著作権侵害は許すわけにはいかないものの、インターネット利用を監視・制限することもできないという理由であったとのことです。)
タイムワーナー社の取締役もNAPSTER社をはっきり批判しました。
更に、NAPSTER論争は、アメリカ上院での公聴会も開かれるほどに発展しました。
ミュージシャンによって構成されるArtist Against Piracyという組織は反オンライン著作権侵害という観点から反NAPSTER色を鮮明にしています。
しかし、これだけの批判にさらされても、逆に、NAPSTER人気は鰻登りでした。
ユーザーの中には、そのうちNAPSTER社は敗訴してファイル交換サービスが使えなくなるから、その前にどんどんダウンロードしておこうと考えた人もいたのかもしれません。
NAPSTER社は、自分たちはいわばプロバイダのようなサービスを提供しているだけで、ファイルの違法コピーを行っているわけではない、逆に、MP3をダウンロードして聞いた視聴者はむしろCDを購入する傾向があるという調査報告もあるくらいなので音楽業界にとってはむしろプラスである、そもそも商業利用ではない個人の私的なファイルの交換については著作権侵害は成立しない(Audio Home Recording Act)、と反論しています
更に、2000年6月ころ、NAPSTER社のサービスの差し止めの仮処分が申請されました。
そして同年7月下旬ころ、裁判所は、当該差し止めにつき判断し、NAPSTER社のサイトに著作権のある音楽を掲載することを禁止しました。
これを不満とするNAPSTER社は、直ちに連邦控訴審にこの命令の効果が発生するのを留保するよう申し立てました。
そして、同月末ころ、ぎりぎりになって、当該命令は留保されたのです。もっとも、一時的な猶予にすぎませんが・・・。
ちょうどそのころ、NAPSTERへのアクセスは急増するとともに、他の無料音楽サイトに対するトラフィックも急増したそうです(NAPSTER難民)。NAPSTERは一躍トップサイトに躍り出ました。
停止命令の猶予がなされている間、もちろん、NAPSTERは業務を継続してゆくことができます。こうして、NAPSTERは「怪物」と化してゆくのです。
同年10月ころから、控訴審での審理がはじまりました。RIAA側は、あらゆる和解案を拒否したとのことです。
そんな中、10月末ころ、ドイツの大手音楽レーベルのベルテルツマン社(Bertelsmann)とNAPSTER社が話し合いの方向性を確認し、ベルテルツマン社が訴訟を取り下げる見通しを発表しました。「怪物NAPSTER」は有料化の途を一歩踏み出そうとしたのです。
そこで気になるのが、他の大手レーベル(4社)の態度です。NAPSTERと提携するかどうかは今のところ明確でないようです。
ところで、同年11月ころ、ユニバーサル社はMP3社との著作権侵害訴訟につき、5340万ドルにて和解することにしたようです。更に、MP3社と提携する話も進んでいるようです。
また、今年になって、IBM社はNAPSTERのサービスを利用したファイルの交換を防止できる技術を開発したとも報道されました。
本年1月末ころ、アメリカの大手インディーズレーベルのひとつが、NAPSTER社への著作権侵害訴訟を取り下げることを明らかにしたとのことです。
同年2月になって、マイクロソフトと司法省との独禁法訴訟において司法省側の弁護士がベルテルツマン社の幹部に就任したとの情報もあります。この弁護士とNAPSTER社の弁護士とは、ともに上記独禁法訴訟で司法省側にたっていたとのことです。
同年2月12日の日経新聞の記事によると、NAPSTER社とドイツのベルテルスマンは、今年6月にも、インターネットによる有料の音楽ソフト交換事業を開始するとのことです。
また、2000年7月末ころのように、今現在、裁判所の判断の直前ということで、再び、NAPSTER社のサーバからは大量のダウンロードが行われているとのことです。
そして、2001年2月12日、NAPSTERサービスを停止する旨の命令が覆されるかどうか、控訴審の判断となりました。
NAPSTERは、ピア・ツー・ピア型のファイル共有ソフトです。共有フォルダとダウンロードフォルダにある音楽ファイル(.mp3、.wmaという拡張子があるもの)を全世界のNAPSTERユーザー(5000万人以上といわれています)と共有します。
例えば、NAPSTER社の反論を参考にして、fair use的な構成をする場合、我が国の著作権法では、自分で購入した音楽CDを自分のPCのフォルダへ音楽ファイルとして複製する行為は、それが個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは著作権者の許諾を要することなく自由に利用できます(著作権法30条)。
しかし、当該フォルダ内の複製物を他者に頒布する行為は複製権侵害とみなされ(同法49条)、著作権者は、侵害者が、いつ、誰に、頒布したのか主張・立証して権利救済をはかることになると思います(ネットワークに接続したことを立証すれば足りるという立法政策もあり得るところかもしれません)。
もっとも、コピー防止手段を回避して複製可能となった複製物をそれと知りながら私的に行うことはそもそも私的使用のための複製とは認められておりません(30条1項2号)。