民事裁判の充実・迅速化

 民事裁判の充実・迅速化
  
弁護士永島賢也 2001年9月7日
 司法制度改革審議会の最終意見書には、「民事裁判の充実・迅速化」について次のとおり述べられています。

 「民事訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、以下の方策等を実施すべきである。

(1)原則として全事件について審理計画を定めるための協議をすることを義務付け、計画審理を一層推進すべきである。

(2)訴えの提起前の時期を含め当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充すべきである。」



 (1)に関してですが、裁判所と両当事者との協議(カンファレンス)に基づいて審理計画を策定するという方向性は是認されるべきと考えます。

 もっとも、全く白紙の状態から協議を開始して審理計画を策定するというのは現実的ではないので、複数のトラック(モデルとなる審理計画案)を予め用意しておいて、その選択・修正を当事者と協議(カンファレンス)して決定する運用の方が適当ではないかと思います。

 モデルとなるトラックは、予め、裁判所と各弁護士会との間で協議して決定し、各地域の弁護士会の意見を採り入れた内容のトラックを策定しておくのが望ましいのではないかと思います。予め各地域の要望を採り入れておくことによってスムーズな協議(カンファレンス)を実現できるのではないかと思います。

 また、事件の類型に応じた審理モデルの作成も考えられることだと思います。例えば、知的財産に関する訴訟にはパターン化が可能な類型が存すると思っております。

 また、既に積み重ねられた訴訟行為を整理して記録し、これを裁判所と両当事者(本人も含む)との間で共有することも有効であると思います。

 というのは、過去に積み重ねられた訴訟行為に関する認識を裁判所と両当事者間で共有すれば、既に策定された審理計画の変更の要否・今後行うべき訴訟行為などについて協議するうえで共通の基盤を確保することができるからです。例えば、東京地裁で利用されている「プロセスカード」はその1例といえます。

 問題点を指摘するとすると、トラック方式の場合、トラックを決める主体は誰かということとその基準はどうするかということだと思います。また、法的性質として、計画審理は、審理契約なのか、事実上の合意なのか、拘束力をどのように理解するのかという問題もあります。

 また、手続の早期の段階で審理の終期まで見通した審理計画を策定するのが合理的かという問題もありうるところです。むしろ、手続の早期の段階では、争点整理(人証調べの直前)の段階までの計画を策定するのが合理的ともいえます。

 というのは、今回の改革は単に期間を短縮すること自体が目的なのではなく審理内容を充実化させることによって民事裁判の迅速化を図ることこそが目的であること、手続の早期の段階で人証調べの期間等を予想するのは困難であること、策定した計画の変更が常態化するおそれがあること、他方、手続の早期の段階でも当該紛争の争点をひとつないし少数に絞り込めるものかあるいは多数かつ複雑になってしまうものかはある程度予測可能であること、訴訟手続の早期の段階に弁論終結・判決言渡期日まで予測して裁判所と両当事者とで協議することが現実的とはいえないのではないかと思われることからです。

 計画審理に関しては、日弁連法務研究財団シンポジウム(平成13年2月16日弁護士会館クレオ)にて、弁護士チームより提案された「穏やかな集中審理モデル」(略して「おだちゅう」モデル)というモデルがあります。判例タイムズ「No.1063.2001.9.1)。

 当初、いわゆる「6ヶ月モデル」と呼ばれていたものですが、6ヶ月という納期が予め設定されているモデルではありませんので、誤解を避けるため「穏やかな集中審理モデル」という名称に変更されたものです。

 オダチュウモデルは、一般的な事件(単独事件、争点2〜3、人証2〜3人)を前提に、訴え提起から判決言渡まで、期日は7回として、おおよそ6ヶ月程度を予定するモデルです。

 オダチュウモデルは、1回の弁論期日で1時間程度の時間を確保し、当事者の主張(言い分)を口頭で交わし、期日終了後は記録を書棚にしまわずに直ちに次回期日準備にとりかかり(並行処理が可能な事件は除く)、できるだけ当事者本人の出頭を確保するものです。



 (2)に関してですが、具体的な審理計画の作成を行ううえで不可欠の前提ともいいうるので、導入には前向きに対処すべきと思われます。

 ドイツ法上の独立証拠調べがモデルとされているようですが、この制度は起訴前鑑定手続とも呼ぶべき制度であり、その問題点は、鑑定作業を行うための基礎資料を訴訟の提起以前にどのようにして収集するかにあります。鑑定人自身が鑑定資料をみずから収集することが現実的かという疑問があります。

 同じく、モデルとなりうるフランスの鑑定レフェレの制度については、鑑定人自身が鑑定資料をみずから収集することが認められ、場合によっては証人尋問まで行うこともあり(和解の勧試も行う)、我が国の鑑定についての基本的考え方とは大きく異なり、むしろミニ訴訟ないしADR的な制度といえます。

 証拠収集制度については、現行法の手直しという観点から、証拠保全手続において証拠開示的な運用を条文上も明らかにすること、提訴前にも当事者照会を認めその効果を明確化すること、訴状・答弁書・準備書面に添付すべき重要書証の写し(民訴規則55条2項、80条2項、81条)につき訴訟類型毎に定型化してゆくこと、そして、文書に関する情報の開示制度(「文書目録」の開示制度・一定範囲の文書についてその名称・作成者等を記載した文書目録を相手方当事者及び裁判所に対して交付する)を導入することなどが考えられます。


以 上
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