譲渡制限付株式の買取請求      

  弁護士鈴木謙吾 2004年2月13日

 譲渡制限付株式の買取請求

 日本にある多くの小規模な株式会社においては、一般的に株式譲渡の制限がされています。

 そして、ある譲渡制限会社Bの株主Aが、所有している株式を現金化したいと考えた場合、上場株を売買するように簡単にはできません。

 法律に則った手続を経る必要がありますし、実務上も困難な問題が多くあります。

 しかし、商法等の概説書には商法204条等に基づいた法的手続の流れは書かれていますが、同手続の過程で問題になりうる点に関する解説はほとんどありません。

 そこで、今回法的手続はもちろん、それ以上に譲渡手続における実践的な問題点を解説致します。


 まず、大前提として、@株主Aは、当該株式を購入してくれる譲渡先Cを見付けなければなりません。

 法的には当然のように規定されていますが、譲渡制限付の小規模な会社の株式を購入してくれる相手方を見つけることは想像以上に困難でしょう。

 そのため、譲渡先を見つけることができないために、商法の手続を利用することすらできない場合も多いと考えられます。

 但し、株価算定は後述する通り極めて困難な作業になりますから、この時点で譲渡先Cとの間で必ずしも売買価格まで確定する必要はないと解釈されています。


 次に、譲渡先Cを何とか探し出すことができた場合には、A株主Aは会社Bに対して株式譲渡承認及び相手方指定請求を行うことになります(商法204条の2第1項)。

 Aの譲渡承認請求を受けた会社Bは譲渡承認を拒否するか、受諾するかを決定することになります。

 会社Bが承認した場合には特に問題はありませんが、B会社Bが株主Aによる譲渡承認請求を拒否する場合には、会社Bは、2週間以内(株主Aからの譲渡承認及び相手方指定請求の書面が到達した日の翌日が起算日と考えられています。)に、株主Aに対して新たな譲渡先Dを指定しなければなりません(商法204条の2第4項及び第5項)。

 仮に、会社Bが2週間以内に新たな譲渡先Dを指定しない場合は、株主Aの譲渡先Cへの株式譲渡を承認したとみなされます(商法204条の2第7項)。

 また、C会社Bにより指定された譲渡指定者Dは、会社Bが譲渡指定をした日から10日以内に株主Aに対し、売渡請求を行う必要があります。

 この売渡請求を行う際には、譲渡指定者Dは、買取価格の額面額を供託し、供託を証明する書面を添付しなければなりません(商法204条の3)。


 他方、D株主Aは、譲渡指定者Dから上記売渡請求が為されてから1週間以内に株券を供託しなければなりません。そして、供託した旨を譲渡指定者Dに通知する必要があります(商法204条の3第6項)。

 この点、供託は厳格な手続が要求されますので、必要書類等を法務局に確認し、十分注意をしながら手続を進める必要があります。

 特に、本件のように時間的制約がある場合は準備期間も短いため、細心の注意を払う必要があるでしょう。


 その後、E株主Aの供託が完了した旨の通知を受けた譲渡指定者Dは、株主Aと売買価格の協議を行い、同協議が整わない場合には、売渡請求日より20日以内に株式価格決定を裁判所へ申請しなければなりません。

 上記@〜Eまでの手続が適正に履行されて初めて、裁判所にて株主A及び譲渡指定者D間にて株式価格を決定するための審理が行われることになります。


 F裁判所での非訟手続においては、公認会計士の鑑定意見書がメインになりますが、最終的には双方が譲歩した上での和解が成立することが多いようです。

 上場していない株式の評価作業は極めて難しく、譲渡の相手方が支配権を有するか否か、現在の会社の価値はどの程度か等の算定困難な事項が多いからです。


 裁判所で十分な審理をした結果、株式の売買価格が決定すると、G供託した株券等の還付及び取戻手続が必要になります。

 株主Aは譲渡指定者Dが供託した金銭に対し還付請求をし、譲渡指定者Dは株主Aが供託した株券の還付請求をすることになります。
 両手続において、裁判所作成の和解調書及び印鑑証明等が必要になります。


 特に和解調書を作成する場合においては(正確には審問期日の合意調書となり債務名義にはなりません)、供託金等の請求も念頭に置いて、本件株式の売買代金として幾らであると明言する必要があります。

 裁判上の和解にてよく行われている紛争の全体を解決する「和解金」として総額で幾らであるとの表現をしてしまうと、供託金の取り戻しができない状況に陥りかねませんので注意が必要です。


 最後に、同時履行を最も確実にするためには、上述した法務局を介する還付と取戻という方法を選択することがベストでしょう。

 しかし、何らかの理由で(例えば、裁判所での審理を望まない場合等)売買契約を解除した上で、双方が株券及び供託金を取り戻した上で、双方に譲り渡すという手法を選択する場合もあり得ます。

 その場合には、作業が迂遠になるだけではなく、同時履行の確保という観点も重要になりますので、十分注意が必要になります。


                        以 上


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