弁護士永島賢也 2001年7月10日
TMDマントラとは、顎関節症呪文のことです。
「唇を閉じ、上下の歯を離し、顔の筋肉の力を抜く」という呪文です。
顎関節症とはあごの関節(顎関節)の周りに何らかの異常が生じる症状です。

異常な症状とは、「あごの痛み」「開口障害(口が開かない)」「関節雑音」などです。
顎関節症は、4つの型に分類できます。それは、
「筋肉障害型」
「関節包・靱帯の障害型」
「関節円板の障害型」
「変形性関節症型」
です。
一番多いのは「筋肉障害型」です。
それでは、
顎関節症の原因は何なのでしょうか?
実は、その主な原因とされているものには変遷があります。
以前は、主な原因として咬み合わせの問題が掲げられてきました。
咬み合わせとは、口を閉じたときの上下の歯のあたり具合のことです。
しかし、最近では、咬み合わせは顎関節症の主原因ではないのではないかとされているようです。
すなわち、最近では、顎関節症の最も大きな原因は
「ブラキシズム」にあるとされているようです。
ブラキシズムとは、クレンチング(くいしばり)、グライディング(歯ぎしり)、タッピング(歯をかちかちさせること)のことです。
実際、顎関節症患者の多くに、「くいしばり」と「歯ぎしり」の症状が見られるとのことです。
これらは、自覚がないままなされていることが多く、就寝中にもおこります。
かようなブラキシズムが生じる原因は日常生活のストレス(良いことでもストレスになります)や習慣・癖(偏咀嚼)などが掲げあれます。
偏咀嚼とは、片側の歯だけで噛むことです。虫歯があって痛いときなどになされやすいようです。
虫歯による偏咀嚼が顎関節症の原因になっている場合、歯を噛んでも支障が生じないように仮に虫歯を治療し、顎関節症の症状がおさまったころに、最終的な歯の治療を行うという段階を踏むのが適当であるといえます。
それでは、顎関節症にはどのような
治療方法があるのでしょうか?
「認知行動療法」、
「物理療法」、
「運動療法」、
「薬物療法」、
「スプリント療法」、
「外科療法」、
などがあります。
このうち、認知行動療法とは、本人が自分のブラキシズムや癖など認識して、それらを取り除くように行動するというものです。
例えば、意識してくいしばりをしないようにします。
くいしばりという日本語表現には、かなり力が入っている状態をイメージさせますが、実は、単に、上下の歯が接触している状態でもくいしばりの状態といえます。
というのは、上下の歯が接触するシーンは、通常、ものを噛むときか、またはものを飲み込むときだけだからです。
そこで、
「TMDマントラ」の出番です。

「唇を閉じ、上下の歯を離し、顔の筋肉の力を抜く」と呪文をとなえるのです。
それから、スプリント療法についてですが、これは、スプリントと呼ばれる装具を装着して歯ぎしりを防ぐものです。
見た目は、ボクシング選手が使うマウスピースを小さく薄くしたような形をしています。
これを装着して就寝すると、夜間歯ぎしりをしていれば、スプリントにその痕跡が残りますので、自分の症状がわかります。
このスプリント療法を行っても、歯ぎしり自体はとめられませんが、歯ぎしりによる関節及び筋肉にかかる力を抑制してその害悪を軽減する効果は期待できます。
スプリントをつけると症状が軽くなるという感じがする場合があると思います。
問題は、スプリントをいれて症状が軽くなった場合、スプリントが入っている高さまで咬み合わせを高く調整すれば、顎関節症の症状は快復に向かうといえるかどうかです。
仮に、顎関節症の主原因が咬み合わせにあるとする説にたてば、スプリントを入れて症状が落ち着いてきているのであれば、スプリントが入っている高さまで咬み合わせを調整すれば、顎関節症が良くなるといえるのかもしれません。
しかし、上述のとおり、顎関節症の主原因がブラキシズムにあるとすれば、そのような方法で顎関節症の症状が治癒して行くのか疑問があります。
歯科医院(医療法人)を被告として、「歯科医院の治療に過誤があり、適切な咬み合わせの位置を調整するのを怠ったため、顎関節症になってしまった」という医療過誤訴訟が提起された場合、仮に顎関節症の主原因が咬み合わせにあるとすれば言い分として成り立っているといえますが、上記のように顎関節症の主原因がブラキシズムにあるとすると、その主張自体そもそも成り立っていないともいえます。
むしろ、顎関節症は、口腔外科に対して治療を求めるべきところといえ、他方、日常生活のストレスからブラキシズムが生じている場合は精神的なケアも併せて必要だといえます。
ブラキシズムの原因が虫歯の痛さのため偏咀嚼の癖がついてしまっていることにある場合などは、歯科医院で虫歯の治療もしてもらう必要があるでしょう。
そして、最後に、咬み合わせの調整が必要になりますが、それは、顎関節症の治療のためではなく、専ら、咬み合わせの調整自体を目的として行われることになると思います。
もっとも、顎関節症の特徴としては、その型によっては、しばらくすると身体の自然適応力が、障害を起こした関節及び筋肉をそれなりにうまく使えるように変化させ、いつしかその症状が消失する場合もあるようです。