弁護士永島賢也 2004年6月18日
「転貸賃料への物上代位と収益執行制度」
抵当権を持っている者は、その不動産の賃借人が持っている転貸賃料まで、物上代位して差し押さえることができるのでしょうか?
この点につき、最高裁平成12年4月14日判決は、先例となる判断を行いました。
すなわち、「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、その賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」というものです。
逆にいえば、同視することを相当とする場合は、物上代位して転貸賃料を差し押さえることができるということです。
これに先立つ平成元年10月27日の最高裁判決は、抵当権がつけられた不動産を賃貸していた場合、抵当権者は民法372条、304条の規定の趣旨に従い、賃借権の発生した時期と抵当権が設定された時期の先後に関係なく物上代位できると判断していました。
この判決の後、不動産競売よりも早期に債権回収が可能な手段として、この賃料債権に対する物上代位の利用頻度が急増しました。
ところが、これに呼応するかのように、今度は、抵当不動産の転貸借が増えてしまいました。
どうして、転貸借が増えてしまったのでしょうか?それは、賃料債権に対してなされる物上代位による執行を免れるため、転貸借がなされたと考えられています。仮に、そうだとするといわば、執行妨害のようなものなのです。
そこで、今度は、この転貸賃料債権について、物上代位できるかどうかが、新たな問題として浮かび上がってきました。
本来、転貸人は、抵当権者に対して、その不動産を競売され、その代金をもって返済を迫られるような責任(物的責任)は、何ら負担していません。
そのような転貸人をして、物上代位が認められる要件としての「債務者(民法372条、304条)」に該当するとはいえないのではないかという疑問が出てきます。
確かに、転貸人には、当該不動産の交換価値は帰属しません。所有者との関係では単なる賃借人にほかならないからです。
そこで、最高裁判所は、先に述べたように、所有者(賃貸人)と賃借人(転貸人)とが同視することを相当とする場合を除き、物上代位は認められないと判断したのです。
いわば、執行妨害といえるようなケースにおいては、物上代位を肯定することにしたのです。
しかしながら、「同視することを相当とする」場合とは、具体的にはどのような場合なのでしょうか?
例えば、賃借人が、所有者のダミーであり、いわば、所有者の傀儡であるような場合は、同視することに問題はないでしょう。
では、賃借人が、抵当不動産の所有者の債権者であり、債権回収の目的で、転貸賃料を得ていた場合はどうでしょうか?
この場合、明らかに、賃借人は、所有者とは別個独立の主体として利害を有しています。
したがって、賃借人を所有者と同視することはできないでしょう。しかしながら、他方で、抵当権が実行されるような経済的危機にある時期に、特定の債権者のみが優先して債権回収を図るというのは不公平であるとの価値判断もありうるところです。この不公平感を強調するならば、この場合も「同視することを相当とする場合」に含むと解釈することも成り立つかも知れません。
その他、例えば、所有者が、安く賃貸していた場合はどうでしょうか?
本来、所有者は、その不動産を賃貸しなければならないというものではなく、また、いくらの賃料で賃貸しても、それは自由なはずです。この場合も「同視することを相当とする場合に含む」と解釈することは果たして可能なことでしょうか?
ところで、平成15年8月、担保執行法が改正され、新たに、担保不動産の収益執行制度が導入されました(民事執行法180条2号)。
実は、この収益執行制度は、物上代位に関する問題点を踏まえて導入されたという経緯があります。
というのは、物上代位は、当該不動産を適切に管理する仕組みをもたず、かつ、継続的な収益全体を執行・配当する仕組みをもたないと評されているからです。
つまり、物上代位では、賃料債権を丸取りしてしまい、本来、当該不動産の管理に充てられるべき費用まで抵当権者に渡ってしまい、結局、物件が荒廃し、かえって賃料収入が減少し、実質的な交換価値も低下してしまいかねないという問題です。
他方、賃借人に用法違反などの問題がある場合、物上代位は全く無力であり、また、空き室がある場合も同様といえます。
加えるに、マンスリーマンション、あるいはウィークリーマンションなどように賃借人が短期間のうちに次々と入れ替わることが予定とされている物件の場合、そもそも物上代位は機能しないといわれています。
また、いわゆるサブリース形態の正常な取引も増加してきております。
そもそも、執行裁判所が、所有者と賃借人の同一性(傀儡性)、執行妨害性などという実質的具体的判断をすることが、その大量迅速に事件処理を行わなければならない執行実務と整合するのかという問題もあります。
そうだとすると、物上代位の抱える問題点、その問題点を克服しようとして導入された収益執行制度、大量迅速な処理を要する執行実務、正常なビジネス形態としてのサブリース方式の増加などの事情を前提とすると、物上代位可能な範囲は限定的に解釈すべき方向性にあるのかもしれません。
とすると、「同視することを相当とする場合」という要件は限定的に解釈されるべきなのかもしれません。また、改正された民法371条も物上代位の根拠条文として掲げることができるようになったといえるかもしれません。
以 上

Copyright © 2004 Kenya Nagashima, all rights reserved.
