医療個人情報ガイドライン改正

 医療分野の個人情報(ガイドラインの改正)
  
弁護士 永島賢也 2006年8月1日

 ガイドラインの改正

 個人情報保護法が施行されるにあたり、厚生労働省が、平成16年12月24日に策定していたガイドラインが、同18年4月21日に改正されています。改正事項で気がついた点は、次のとおりです。

 ガイドラインの対象の範囲について

 介護予防サービス事業、地域密着型サービス事業、地域密着型介護予防サービス事業も、ガイドラインの対象としている事業者の範囲に含まれるとしています。


 個人情報の目的外利用について
 
法令に基づく場合(16条3項1号)
 警察等の捜査機関の行う照会(刑事訴訟法197条2項など)は、利用目的とされていなくとも、法令に基づく例外として、本人の同意を得る必要はないとされています。
 引用しますと以下のとおりです。
 「根拠となる法令の規定としては、刑事訴訟法197条第2項に基づく照会、地方税法第72条の63(個人の事業税に係る質問検査権、各種税法に類似の規定あり)等がある。
 警察や検察等の捜査機関の行う刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会(同法507条に基づく照会も同様)は、相手方に報告すべき義務を課すものと解されている上、警察や検察等の捜査機関の行う任意捜査も、これへの協力は任意であるものの、法令上の具体的な根拠に基づいて行われるものであり、いずれも「法令にに基づく場合」に該当すると解されている。」
 つまり、以前のガイドラインが述べていた部分、すなわち、この場合に、「本人の同意を得ずに個人情報の提供を行ったとしても、個人情報保護法第16条違反とはならないが、場合によっては、当該本人からの民法に基づく損害賠償請求等を求められるおそれがある」という部分が、削除されています。
 この削除された部分は、以前より、しばしば、問題視する意見が出ていたところでした。照会への協力を不当に萎縮させるおそれがあるとされていた部分です。その他の法令に基づく照会制度への悪影響もあるとされていた点ですので、妥当な改正であると思われます。
 実際、最近は、「捜査関係事項照会書」という書面での照会がなされているようです。単に、電話による口頭での回答を求めるなどという、安易な照会の傾向は少なくなっているのではないかと思われます。

人の生命等の保護に関する例外の場合(16条3項2号)
 同様に、人の生命等の保護に関する例外として、「意識不明で身元不明の患者について、家族又は関係者等からの安否確認に対して必要な情報提供を行う場合」、「大規模災害等で医療機関に非常に多数の傷病者が一時に搬送され、家族等からの問い合わせに迅速に対応するためには、本人の同意を得るための作業を行うことが著しく不合理である場合」が加筆されています。妥当なものと考えます。おそらく、JR西日本(福知山線)の脱線転覆事故時の問題点等が勘案されているものと思われます。確かに、大規模災害が発生し、家族から災害に巻き込まれていないか、あるいは、どこの病院に搬送されているかなど、安否確認の電話がかかってきたとき、これを個人情報の保護という観点から拒否するという取扱いは、妥当な結論とはいえないように思います。

国の機関等の事務の遂行に関する例外の場合(16条3項4号)
 その他、「災害発生時に警察が負傷者の住所、氏名や傷の程度等を照会する場合等、公共の安全と秩序の維持の観点から照会する場合」も、同様に、ガイドラインに加筆されています。



 第三者提供の例外(23条1項2号、4号)
 そして、人の生命等の保護に関する例外と国の機関等の事務の遂行に関する例外の各論点は、第三者提供の例外(本人の同意が不要)も同様となります。



 従業者の監督について(21条)
 個人情報取扱事業者は、従業者の監督を行わなければなりませんが(21条)、そこに「指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」等の基準が明記され、従業者の監督義務に関する記載が充実しています。



 業務委託をする場合の取扱いについて(22条)
 業務委託については、医療情報システムの導入及びそれに伴う情報の外部保存を行う場合の取扱いにつて、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」によることが明記されています。改正前は、単に、「厚生労働省が別途定める指針」とされていました。対象が明確化されました。



 生徒の教職員への説明について(23条)
 第三者提供については、同意があると考えられるケースとして、家族への病状説明の例が掲げられています。例えば、「病態等について、本人と家族等に対し同時に説明を行う場合には、明示的に本人の同意を得なくても、その本人と同時に説明を受ける家族等に対する診療情報の提供について、本人の同意が得られたものと考えられる」とされています。
 これと同様に、「児童・生徒の治療に教職員が付き添ってきた場合についても、児童・生徒本人が教職員の同席を拒まないのであれば、本人と教職委員を同席させて、治療内容等について説明を行うことができる」とされています。
 この点につきましては、厚生労働省が作成したQ&A集の5−23を参照してください。学校で怪我をした生徒に担任の先生が付き添って来たという例が記載されています。つまり、生徒に付き添って同席し、生徒がこれを拒否しないのであれば、その怪我の病状の説明について、生徒本人の同意があると考えるのです。



 同一事業内における情報提供について
 同じく、第三者提供に関する点ですが、そもそも、第三者に該当するか、それともしないかという問題があります。例えば、第三者に該当しない例として、同一事業者内における情報提供の例が掲げられます。例えば、同一事業者が開設する複数の施設間における情報の交換などです。
 しかし、当該事業者の職員を対象とした研修での利用については、第三者提供でないとしても、職員研修という項目が利用目的として院内掲示等されていない場合、具体的な利用方法について本人の同意を得るか、個人が特定されないよう匿名化する必要があるとされています。職員を対象とした研修は、通常、当該医療機関が患者に提供する医療サービスに含まれ得るものなのか微妙であるという点を指摘可能だからではないかと思われます。



    ガイドライン PDF

    Q&A PDF

    医療情報システムのガイドライン PDF

 
関連情報
 患者情報保護Q&A230
個人情報保護法 
過失(医療)
 ガイドライン見え消し版


以 上
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